第1章 体温で溶ける恋の味
でも、チョコを摘む事は出来なかった。
京治に、手を掴まれたから。
「俺が甘いの苦手なように、みやびは苦味が苦手だからね。」
流石は長い付き合い。
私の好き嫌いをよく知ってらっしゃる。
だからどうした、って話だよ。
味見もしてない手作り品を渡した嫌味か。
苛々として手を払おうとしたけど、思ったより強く掴まれていて離れない。
「味見もしてないもの、人に渡すもんじゃないよ。今からでも、味見しないと、ね。」
京治が笑っている。
唇の端を上げた、悪い笑顔。
空いていた手が、箱からチョコを取り出して。
今度は口の中に吸い込まれる事無く、唇に挟まれている。
手を引かれて、テーブルの上に乗り上げる形で近付く顔。
茶色の球体が唇に触れて、口の中に受け入れた。
告白聞かなかった事にしたクセに。
なんで、こんな事をするのか分からない。
だって、今のって口移し。
ほぼ、キス。
口に広がる苦味と、心に広がる苦味に耐える。
「好きな人は、イジメたくなるんだよね。俺も、男だから。」
半泣きになっている顔を指差して、どこか嬉しそうな京治がいた。