第10章 キルミーはママの味
「あ……そうか。これを食べずに東条ちゃんに渡せばよかったんだね! いやー、オレとしたことがうっかり食べちゃったよ!」
ニコニコ笑いながらそのまま掻き込んで完食してしまった。
これでプリンの残りはゼロになったわ……。
「王馬君、あなたの態度には色々と言いたいことがあるけれど……今回は時間がないから後にするわ」
「覚えてなさい、ってこと? ふふーん、説教なんて要らないよーだ」
プリンカップとスプーンを流しに置くと、そのまま逃げるように走って出て行ってしまった。
「………はぁ」
どうしましょう。せめて何か代わりを用意しないと……。
見回すと、プリンに使った卵の余りが目に入った。
3回、ノックが聞こえた。何故だか控えめな叩き方だった。
「……希灯さん、あなたに謝らなければならないことがあるの」
『どうしたの……?。』
手に持っていたのはプリンカップと同じくらいの大きさの器が乗せられたお盆だった。
「プリンは食べられてしまったわ……ごめんなさい。私はあなたからの依頼を完遂できなかった……」
明らかに落ち込んだ様子の斬美ちゃん。
『だ、大丈夫だよ……!。また作ってくれたらいいし、それに何か代わりに作ってくれたんだよね……?。』
「プリンとは程遠いけど……簡易的な茶碗蒸しを作ったわ。卵と出汁を電子レンジで固めたものだけど……やはりこんなものじゃ、あなたを満足させられない」
悔しげに顔を歪める斬美ちゃんから、茶碗蒸しを受けとる。
『とにかく……食べてみるよ。』
スプーンで掬って食べる。中にはカマボコを細かく刻んだものが入っていた。
『え……これって………!。』
これ、食べたことある!。この味はよく知ってる!。
『斬美ちゃん、これどうやって作ったの……?!。』
「出汁と水と卵とカマボコをカップに入れて掻き混ぜて、そのままレンジでチンよ……。短時間で用意できるから作ったのだけど、こんなのじゃ駄目だったでしょう……?」
『ううん、寧ろすごく良い!。この味は……母さんがオヤツみたいな感じでたまに作ってくれたのとそっくり同じなの。』
感心していると、斬美ちゃんがポカンとした顔で茶碗蒸しを見た。
「そうなの……?」
『うん、カマボコの大きさも同じくらい。なんだか懐かしいよ……ありがとう。美味しい。』
風邪も吹っ飛びそうなくらいだよ、と言うと斬美ちゃんはホッとしたように微笑んだ。