第5章 テノヒラアワセ
「そうだな……俺たちは未来へ進まなきゃいけない。でも、この想いはいつになったら消えるんだろうな?」
『多分、一生消えないよ。……他の人を好きになっても、きっとずっと、心の中にあり続ける。だってただの好きな人じゃなくて、自分の人生にとってかけがいのない、大事な存在でしょ?。なら……この想いを消すなんて不可能だよ。』
どんなに足掻いても、自分の心には嘘なんて吐けない。そして完全に忘れることも出来ない。
プログラム世界で実際に記憶を消された私だって途中でイズルくんのことを夢として思い出していた。
『日向くん。少しだけいいかな。』
「……あぁ、あれだろ」
お互いに掌を相手に向けて、くっ付け合って目を閉じた。
『……ごめんね。』
「いや、いいんだ。こっちこそごめんな。一番最初に提案したのは俺の方なんだし」
手の大きさ、体温、指の感覚。目を瞑っている間は、それらは相手の存在を変えた。
私たちはこうすることで、また好きな人と会っていた。
イズルくんの手は大きい。少しひんやりと冷たい。
次第に指が自然と絡み合い、体温が一緒になる。
気がつけば涙が溢れていた。
『……イズルくん。これからもずっと大好きだよ………。』
「七海……俺はお前を一生大切にするからな……!」
鼻を啜る音と涙の落ちる音が波に混ざって溶けていく。
愛する人への言葉は、まるでお別れの言葉のようにも感じた。
前へ進むための決別を自分の心と交わす。
今の私たちには、それが精一杯だった……。