第5章 テノヒラアワセ
夕日で満ち足りた橙色の海。
ジャバウォック島は今日も平和だった。
未来機関の幹部同士のコロシアイが終わってから、もう何ヵ月も経った。
世界も少しずつ落ち着いて、また在るべき姿を取り戻しかけている。
私たちもまた、未来機関がそのまま委ねてくれたこの島を拠点に世界復興を志して日々忙しい生活を送っていた。
1週間ほど島の外に出て支援やまだ残る絶望の残党の処置などの活動を終えてきた私は、仲間たちに帰ったことを報告してから砂浜に行った。
外の世界はまだお世辞にも平和とは言えなくて、空気も依然酷い所は危険で入れないし、破壊されたままの建造物の大半は未だに手がつけられていない。
それに絶望の残党と対峙することも何回かあった。
数年前に「超高校級の絶望」として世界に混沌と恐怖を与え続けた第77期生の仲間たち。新世界プログラムを経て更正し、未来機関を助けに行った際に全世界に向けて放送した彼らの姿は絶望の象徴として一般市民から認知されている。
覚悟の上ではあったけど、彼らと一緒に行動している私ももれなく「絶望の残党」なのだ。だけど同時に絶望と敵対する「未来機関員」でもある。
あの時、私だけプログラムから目覚められずについていけなかった。当然放送には映らず、世界にはまだ私の素性はバレてないから外での活動もしやすいだろうと言うことで送られたわけだ。
だけどいつ正体がバレるか分からないから、どこへ行っても心休まる瞬間なんてなく日夜警戒しながら過ごした。
助けた一般人から危害を加えられる可能性もある。
絶望の残党に殺される可能性もある。
信頼できる人も近くにはいないし、1週間ずっと体力にも精神にも疲労が溜まり続けていた。
少しでも心を洗おうと、プログラム世界のジャバウォック島に近い景色の海を眺める。
最近は空気汚染の影響で真っ赤だった空も薄まってきて、元の色に戻りかけている。見てきた外の世界は相変わらず荒れていたけど、こうしてちょっとでも復興の実感が湧けば何とかやっていける気がした。
「希灯、ここに居たのか」
私の横に誰かが座る。
日向くんだった。
『日向くん、お疲れ様。』
「あぁ、お疲れ」
しばらく2人で話すこともなく、沈みかける太陽を静かに眺めていた。