第1章 抱いた気持ち
家康さんのお屋敷に住み初めて
1ヶ月が経とうとしていた。
お屋敷の女中さんや皆さんは
皆好い人ばかりでとても親切にして貰っている。
姫なんて柄じゃないので
お手伝いなんかもさせて貰いつつ、
お世話になっている恩返しと、
慣れないこの時代の息抜きにもなる
平穏な日々は続いていた。
「はぁ.......」
それなのに思わず溢れ出るため息
暮らしに不満は無いんだけどな....
脳裏に浮かぶのは、あの人の顔
嫌われては無いと思う、多分
言葉や態度に出さないだけで
十分あの人の優しさや思いやりも
最近は分かってきたつもり。
照れ屋?天の邪鬼?なんだと思う
多分、多分?
もう少しあの人の心に近づきたい
そんな想いが私の中のに芽生えてきている
庭を楽しそうに跳ね回るワサビを
ぼぅっと眺めながら
つい先日の事を思い出していた
少し早めに目覚めた朝
朝食の支度でも手伝おうと
台所に向かっていた私。
何気無しに庭先に目をやると
そこにはワサビと家康さんが居た
あ、早起きなんだな。そう思い
挨拶をしようと声をかけかけた瞬間
「....いいこ」
ワサビの頭を撫でながら
家康さんが優しく微笑みそう呟く
朝の澄みきった空気と
朝日を浴びた池の光の反射が
キラキラと光って
そこだけ切り取られた絵画の様に見えた
何て優しく笑うんだろう.......
思わずその光景に見惚れてしまう
ふと、私の気配に気がついたワサビが
嬉しそうにこちらに駆け寄ってきた
家康さんもこちらに目線を向け
はたと、お互いに目があった。
「.....何してんの?」
声をかけられ、我に返る
「あ...いえ、あの、おはようございます....」
まさかあなたに見とれてましたなんて
言える訳もなく、
ただ何となく気恥ずかしくなり
最後の方は、消え入りそうな声になってしまった。