第1章 引力には逆らえない。
「ちゃんが毎年言ってる俺が磁石のS極で、女の子達がN極だって話」
「……?」
突然始まった徹の話。
壁に凭れて腕を組んで、勝ち気な笑みを見せる徹はとんでもなく絵になっている。
鼓動の速さを感じながら、私は話に耳を傾けた。
「その理屈から言うとちゃんもN極なんじゃないの?」
「私は、違うよ…」
「へぇ…?」
壁際にいた筈の徹が一歩、また一歩と私との距離を詰めて来る。
「ねぇ、俺宛じゃないとしたら…その鞄の中のチョコレートは誰のトコに行くの?」
「……っ」
驚いて徹の顔を見る。
この顔は、ちょっと怒ってる時の顔だ。
それよりも、なんで鞄にチョコが入ってるって知ってるの…。
「なんで知ってるのかって?朝からちゃん、鞄ばっかり気にしてるよ。無意識っぽかったけどね」
「………っ!」
ジリジリと追い詰められ、気付けば背中にヒヤリとした壁の感触。
私よりも30センチ大きい徹の影が私に掛かった。
頬に徹の大きな手が添えられる。
「と、おる……」
幼馴染みと過ごして来た今まで、こんなに距離が縮まった事があっただろうか。
あったとしても、それはずっと昔の小さい頃。
こんなに爽やかな香りがするだとか、
男の子なのに肌が凄く綺麗だとか、
小さい頃は気にしなかった体温の違いだとか。
(知らない………、)
「ちゃん」
至近距離で目が合い、ドキリと心臓が跳ねる。
「鞄のチョコレートは俺宛て、だよね?」
顔に熱が集まる。
あぁ、もう逃げられないかも。
私は小さく頷いた。
恥ずかしくてそのまま顔を上げられず、俯いたまま自分の上履きを見つめていた。
「……よかった」
大きな溜め息と共に弱々しい声が頭上から降ってきた。