第1章 引力には逆らえない。
学校へ着けば、昇降口から早速二人は待ち構えていた後輩の女の子達に囲まれる。
教室のある階が違う彼女達に取っては朝のこの時間と放課後が唯一のチャンス。
私は二人から自然に離れてそそくさと上履きに履き替えた。
幼馴染み二人がモテる事は大いに鼻が高いけれど、やっぱり寂しくも思う。
視線を落としたまま、背を向けて先に教室に向かう。
「ちょっと待った」
「…!」
強い力で腕を引かれ、その反動で振り返る。
「と、おる…?」
「ちゃん一限空きでしょ、ちょっと俺に付き合って」
「え…?え?」
「決まりね、じゃ岩ちゃん後よろしく~」
「えっ!?あ、ちょ…!徹っ!」
私の腕を掴んだまま、女の子達の波を笑顔で掻き分け抜けていく。
あぁ、彼女達の視線が凄く痛い。
背中にははじめの罵声。
もちろん徹へのだけど。
そんなの全く気にしていない様子で歩いて行く。
「徹…っ、何処まで行くの…!」
「決めてないけど、人がいないトコ。あ、部室にしようか。うん、そうしよう」
「え?え??」
一人で会話を進める徹に何も言えないまま、気付けばバレー部の部室の前だ。
ここまでの道中も徹は声を掛けてきた女の子達を笑顔で躱し、一つもチョコを受け取らなかった。
バタンとドアが閉まると部室には私と徹、二人きり。
廊下の喧騒が遮断され、急に訪れた静けさ。
唾を飲み込むのも、躊躇ってしまう。
「チョコ、良かったの…?受け取らなくて」
折角二人になれて、今がチョコを渡すチャンスだと言うのに私の口からは余計な言葉ばかりが出てしまう。
こんな私、きっと徹は女の子として見てくれるはずがない。
私は強く自分の鞄を抱き締めた。