第1章 引力には逆らえない。
不思議に思って顔を上げた、その一瞬をこの男は見逃してくれない。
「……っ!」
端正な顔が間近に迫ったと思えば、次の瞬間に唇が重なった。
「好きだよ、…ずっとずっと好きだった」
「………う、そ…」
キスされた事よりも告げられた言葉の方に驚いてしまう。
「ホント」
そう言って笑う徹が眩しい。
頭の中を整理しようとグルグルと考えていると更にそこに追い打ちを掛けられる。
「ちゃん、キスしたのわかってる?」
「キス…………キッ…!!!」
急に恥ずかしくなって自分の口元を手で押さえる。
そんな私の様子に満足なのか、徹はニヤリと笑みを浮かべていた。
そうだ、私は。
さっき徹と……。
無意識の内に指で自分の唇に触れる。
突然の事過ぎて、どうだったか思い出せない初めてのキス。
「さっきのはカウントしなくていいよ」
どうやら私の思考は駄々漏れな様で。
ニコニコしながら片手を差し出して来た徹に私は鞄の中の包みを渡す。
パールホワイトのツルツルとした包装紙にペールグリーンのリボン。
ラッピングで迷っていた時にたまたまこの組み合わせを見つけて即決した。
バレー部のユニフォームみたいで、なんだか特別に見えたのを覚えてる。
「…ありがと、やっと手に入れた」
恐る恐る視線を徹に向ける。
そこには心底嬉しそうな、それでいてどこか泣きそうな顔があった。
小さい頃はよくこんな顔してたな…。
その顔を見て私も思わず笑顔になってしまう。
「ちゃんは確かにN極じゃないかも」
「え…?」
「何でもない」
「と、おる…っ」
再び重ねられた唇。
今度は重なり合う中の僅かな隙間から舌が入ってくる。
「一度引き寄せたら、もう離さないから」
まるで獲物を捕らえた肉食獣。
引き寄せられてまんまと捕まった私はきっともう逃げられない。
だってこんなに強い引力には、誰だって……ーーー
(逆らえない………)
END.