第1章 引力には逆らえない。
2月14日。
乙女達の戦争は朝の登校時間からすでに始まっているのだ。
私の隣を歩く二人の幼馴染みの元へもさっきから女の子達がやって来ては戦いを挑んでいる。
右、及川徹は「ありがとう」と言って爽やかに笑い差し出されたプレゼントを受け取っている。
左、岩泉一は「ごめんな」と言ってやんわりとそれを断っている。
対極な対応を見せる幼馴染み達の間で私は口を開いた。
「はじめは貰わないの、チョコ」
「甘いモン得意じゃねぇしな」
「まぁ、はじめの所に来るチョコはほとんど本命っぽいもんね…付き合うつもりないなら貰えないか、それに比べてすっごい磁石様だ事…」
そう言って私は冷ややかな目線を左側に送る。
だけど、私のそんな嫌味など全く気にしていない様子で徹は笑顔を返してきた。
N極である女の子達はみんなS極の徹に引き寄せられる。
バレーに関して言えば、はじめもN極だねっていつだか話したらはじめに怒鳴られた。
「あんなヤツと引っ付いてたまるか」って。
「だーかーらっ、毎年言ってるじゃん!ちゃんが俺に本命チョコくれるんだったらさ、もう俺他の子からは貰わないって」
「どーだかな」
「ちょっと!岩ちゃん!?」
冗談なのか本気なのかわからないその言葉に、私は毎年ドギマギさせられている。
そう言われても毎年チョコは用意しなかった。
だけど、
今年で高校生活も終わりなわけで、四月から三人の内徹だけは東京へ行ってしまう。
そんな事情もあって、今年の私の鞄には小さなチョコを忍ばせてあった。
「はぁ……」
私の左側を歩くこの男に、報われないであろう恋をして早五年。
それを知っているのは、はじめだけ。
気持ちを伝えればいいって何度も背中を押してくれたけれど、勇気が出せない私はダラダラと幼馴染みと言うポジションのままここまで来てしまった。
私の溜め息は寒空に白く広がって消えていった。