第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「また連絡するな。ゆっくり休めよ」
「うん。今日は本当にありがとう。おやすみなさい」
「おやすみ」
私はそばに停車していたタクシーに乗り込む。
てっちゃんは走り出すまで私を見送ってくれた。
てっちゃんの分の飲み物を買ったことは、自分の部屋に入るまですっかり頭から抜けていた。
『ねぇ梨央、今年二人で花火行かない?』
高校からの親友、夏帆から久々の電話。
修一さんと別れたことを告げたら、こんな話になった。
こういう時、女友達っていいなって実感する。
花火だろうとクリスマスだろうとバレンタインだろうと、彼氏がいなくてもしっかり楽しめる。
「いいね。行こ行こ!」
『浴衣着ちゃう?』
「浴衣かぁ。高校の時着てたのしかないなぁ……。うん、いいや。買っちゃう!」
『あはは!じゃ、楽しみにしてる。またね』
そんなやりとりをして、電話を切った。
目の前には乾燥機から取り出した、山のような洗濯物。
それを一枚ずつ畳んでいく。
太陽の下に干せないのは仕方がない。
季節は梅雨真っ只中。
じきに夏がやってくる。
デパートに入れば、浴衣や水着、サンダル、爽やかなブルーのコスメ。
沢山の夏のアイテムが目につく。
それは見ていて確かに楽しいんだけど…。
てっちゃんは、誰かとどこかに行くのかな?
その "誰か" は、汐里ちゃんだったりする?