第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「汐里…ちゃんって、木兎くんが話してた子?」
「そうそう。あいつも職場この近くで」
「大丈夫だったの?話…」
「ああ。また連絡するし」
「そう…」
彼女……とは言ってなかったよね、木兎くん。
でもそれに近い存在なのかも。
気になるなら、てっちゃんに聞けばいいのに……。
それが出来ない。
「行くか」
「あ!……あの、やっぱり一人で帰る」
「何?遠慮してんの?こんな日くらい甘えろって」
てっちゃんの優しさ。
さっきまではあんなに心が安らいだのに、今は苦しい。
この優しさが、いつか私を追い詰めてしまう気がする。
「違うの。やっぱり今日は疲れちゃって。もうタクシー使っちゃおっかなって」
「ああ…そっか。早く帰ってゆっくりした方がいいよな。じゃあ、気をつけてな。今度気晴らしにドライブでも行こうぜ?」
「……私とでいいの?」
「え?」
あ……。
変なこと言っちゃった。
私、すっごく気にしてる。
汐里ちゃんのこと。
だって本当に可愛くて、てっちゃんともお似合いだった。
気にならないわけがない。
さっき修一さんと別れたばかりじゃない…。
それなのに、どうして?
今の私の頭の中は、てっちゃんと汐里ちゃんのことでいっぱい。
「あ、うん…。連れてって」
上手く笑えたかな…。
"梨央ちゃん" の顔、作れたかな?