第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「家まで送る」
「……ありがとう」
甘え過ぎかな…。
でももう少しだけ、一緒にいて欲しい。
今度は私のすぐ隣に並んでくれた。
背が高いから歩幅だって大きいはずなのに、私に合わせてくれてる。
小さな優しさのひとつひとつが、私の心に突き刺さった棘を溶かしてくれる。
そんなこと、てっちゃんは気づいてないんだろうな。
駅の構内を歩いていく先にコンビニが見えてきた。
「あ、ねぇ。ちょっと喉乾いちゃった。飲み物買ってきていい?」
「ああ」
てっちゃんに断り、私は一人店の中へ。
そう言えばごはん食べてない。
安心したらお腹も空いちゃった。
何か緊張感ないな、私。
おにぎりと二人分の飲み物を持って、会計を済ませる。
コンビニを出て少し離れたところに、てっちゃんの背中が見えた。
「てっちゃん」
お待たせ、って言おうとしたその時。
大きな体の向こう側に人がいるのに気づいた。
小柄な、女の子。
「汐里、大丈夫か?」
「ねぇ、テツさん。私どうしたらいいかわからない…」
"汐里" …?
もしかして木兎くんが言ってた、てっちゃんの友達…?
何か深刻な顔して話してる。
すごく、可愛い子…。
「お人形さんみたい」って、ああいう子を言うんだろうな。
ボーッとしたまま立ち尽くしてると、その子がこちらに目を向けた。
てっちゃんもそれに気づいて振り返る。
「あ、買えた?」
「うん…。お待たせ」
私たちを見比べて、その子は申し訳なさそうに肩をすくめた。
「あ…ごめんなさい。一人じゃなかったんですね…」
「ああ…。悪い汐里。また連絡するな」
「いえ。引き止めてすみません」
その子は私にも会釈をして、そこから去っていった。
何か胸がザワつく。
理由は、わかってる。
あの子が、てっちゃんの腕を掴んでいたから…。