第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「俺、変わるから。もう梨央に何も言わないし、求めない。そのままの梨央でいいから」
「…………本当に?」
「ああ…」
「何も、求めない?」
「もちろん!約束する!」
修一さんは前のめりになって、口早に答えた。
私は一度目を伏せる。
真下にある手付かずのコーヒーに視線を落として…
それからまた、彼を真っ直ぐに見据えた。
「それ、次の彼女にそう言ってあげて」
低く冷たい声。
こんな声出せるんだ、私。
声だけじゃない。
たぶん、修一さんを見つめる瞳も酷く冷たいと思う。
修一さんの目に、怒りが宿る。
今まで顔色を窺っていたクセがそれを理解させた。
さっきまでの弱々しい彼の雰囲気は、一気に棘を持つ。
「あっそ。もういい。見た目がまあまあってだけで中身はねーし。代わりの女くらいどこにでもいるわ。お前と付き合ったのは時間の無駄だった」
冷たく言い捨てて立ち上がる。
怒りを含ませた瞳を私に向け、最後まで私を傷つける言葉を残してそこから去っていく。
体が冷えていく感覚がした。
この人と付き合ったことに、何の意味があったんだろう。
あんなに気持ちを掻き乱されて、自分がわからなくなって、僅かなプライドも踏みにじられて。
修一さんといる時は、女としても人としても、自信なんてまるで持てなかった。
沢山流した涙―――
修一さんのために流す意味なんて、あった?