第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
注文を取りに来た店員さんにコーヒーを頼んで、改めて修一さんと顔を合わせた。
私は静かに口を開く。
「何度話しても気持ちは変わらないから。もう、修一さんと付き合うのは無理」
「……何で急にそんなこと言い出すの?」
「急じゃない。ずっと違和感のある付き合いだった。修一さんは私に求めることが沢山あって…。こんな関係、疲れちゃったの」
「梨央のためを思って言ってただけなんだよ。それが嫌なら、やめる」
そんな風にしおらしく言ってみせるけど…。
今となればもう、修一さんの思考がわかる気がした。
所詮、この場限りの言葉。
「信用できないの。例え私が修一さんの理想どおりの女になったとしても、あなたはその中からまた粗を探す」
この人は、そういう人。
気持ちが冷めるとこうも冷静になれるものなんだ。
修一さんを目の前にしながら、そんなことを思う。
もう、自分を見失いたくない。
私は私のために生きたい。
修一さんの顔色を窺ったり、何をするにも修一さんの存在を気にしたり。
セックスの時にしか愛の言葉をくれないなんて、そんな関係虚しい。
私は愛されてなかった。
修一さんの手の中で動かせる女だから、選ばれただけ。
そして今、そんな女から別れを告げられている。
きっと彼のプライドが許さない。
だから、執着している。
お願いだから、もう私を自由にして。