第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「彼と、どうなった?」
あれから梨央ちゃんの口からは何も聞いていない。
さっきの梨央ちゃんの態度からして、嫌な予感がする。
「まだ、別れてないの…。別れ話したけど受け入れてくれなくて、『意味がわからない』って…。最後は…服…脱がされそうになって…」
「な…っ!おい、それ…っ」
「だ、大丈夫!されては……ない…から」
「……」
そいつ…好きとか嫌いとかそんなことじゃなくて、おかしな執着の仕方してるだけじゃねぇのか?
これもう、二人きりにしちゃ絶対ダメだ。
一歩間違えたら強姦だぞ…。
「また週末、改めて話すことになってるんだけど…」
「あのさ」
「?」
「もう家では会うな。話すなら外…人の目のあるとこで」
「うん…」
「そんで、次に会う時は俺も一緒に行く。俺が話つけてやるよ」
「え?」
梨央ちゃんは目を大きく開いてこっちを見てる。
数回瞬きして、考えるようにうつむいた。
「……私……ちゃんと、二人で話したい…」
「だけど…」
「自分でケリをつけないと、いつまでも彼に囚われたままな気がする」
「……」
何でだよ…。
何でそんなとこで強情なんだ?
もっと頼れよ。
あんなに泣いてたじゃねぇか。
さっきまで青い顔してたの、誰だよ?
俺の手で助けてやりたい。
……そう思うのは、俺のエゴなのか?
「でも、ひとつだけ甘えさせてくれる?」
「…何?」
「近くに…いて欲しい。それだけで、心強いから…」
揺れる瞳が俺に向けられる。
梨央ちゃんなりに精一杯頼ってくれているんだと、その目を見てやっとわかった。
それなら……。
「もちろん。ヤバくなりそうだったら、止めに入るからな?」
「うん…」
きっと、手立てがわからなくて途方に暮れてたんだと思う。
梨央ちゃんはホッとしたように、表情を和らげた。