第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「おい、梨央ちゃん…?」
俺だけじゃない。
木兎や赤葦、ツッキーも梨央ちゃんの様子がおかしいことに気づく。
「どした!?腹でも痛てぇ?」
「ごめ…大丈夫……」
大丈夫じゃねぇ。
血の気が引いたように青くなってる。
「梨央ちゃん、ちょっと車で休もう。赤葦、鍵貸してくんね?」
「はい」
車の鍵を受け取り、梨央ちゃんの手を引いて駐車場へ向かう。
「車まで歩けるか?」
「うん…」
梨央ちゃんは俺の手をギュッと強く握ってくる。
もしかして……彼氏が関係あんのか?
この前、ショックを受けながらも彼との関係を話してくれた梨央ちゃん。
梨央ちゃんの今の顔。
あの時の表情と、全く一緒だ。
駐車場まで歩いてきた俺たち。
取りあえず車の助手席に梨央ちゃんを座らせ、そばの自販でミネラルウォーターを買う。
俺も運転席に乗り込んで、それを手渡した。
「大丈夫か?」
「ありがと…。少し、落ち着いた」
ひと口だけ水を飲んで、梨央ちゃんは力なく笑った。
そして小さな声で続ける。
「さっきの……割り箸もらいに来た人……」
「うん」
「声と話し方、彼そっくりだったの……」
「……」
「『気が利かねーなぁ』って言葉も、私しょっちゅう言われてた。だから一瞬、本人かと思って……」
クソ…
これもう、トラウマみてぇになってんじゃねぇか…。