第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「ごめんね。迷惑かけて」
「謝んなよ。迷惑なんて思ってねぇから」
「ありがとう」
「もう少しここにいる?木兎たちには、貧血で気分悪くなったとでも言っとくか」
「うん」
取り合えず木兎に連絡を入れて、俺たちは車内に留まった。
フロントガラスの目の前を、手を繋いだカップルが通り過ぎる。
楽しそうな笑い声がここまで届く。
「いいな…」
梨央ちゃんの口から声がこぼれた。
街中にいればどこにでもいるような、ごく普通の男女。
きっと特別なことを求めてるわけじゃない。
ただ笑いながら、手を繋いで並んで歩く……梨央ちゃんは、そんな "普通" が欲しいんだよな。
俺なら、その "普通" を梨央ちゃんにあげられる。
だから梨央ちゃん。
俺んとこ来いよ。