第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
程よく火が着いた所で、肉や野菜を並べていく。
今はバーベキュー用にカットされた野菜なんかも売ってるから助かる。
次第に辺りに広がるバーベキュー独特の匂い。
「そういやぁ、森然の合宿でもバーベキューしたよなぁ!」
「木兎さん、やたら月島に肉食わせたがってましたよね」
懐かしいな。
監督やコーチが最終日にご馳走してくれたんだっけ。
「合宿って、バレーの?」
「ああ。梟谷学園ってあるだろ?木兎と赤葦はそこのバレー部で、夏に合同合宿したことがあるんだよ」
「一緒の学校だったんだね。どうりで息が合ってると思った。ツッキーは?」
「宮城の烏野ってとこ。ツッキーは一年の時からレギュラーで、春高にも出場したんだぜ?」
「へぇ!すごいんだぁ!」
梨央ちゃんは肉をモリモリ盛った皿をツッキーに渡した。
いや、その人体育会系にしては少食だからそんな食わねぇよ?
案の定、ツッキーはその皿を見て険しい顔をしている。
「ね、いつから東京にいるの?」
「大学進学の時に出てきて。そのまま就職したんです」
「へぇ。寂しくなかった?」
「んー…。別に」
「そっかぁ。すごいね。私なんて、環境が変わる時はいつも心細くなっちゃう。引っ越しとか、就職とか転職とか」
梨央ちゃんのこと、明るくてすぐにその場に馴染めるタイプだと思ってたけど。
一人で新しい場所に飛び込むことが、平気なワケないよな。
初めて出会った夏の日も、そんな不安を抱えてたんだろうか。
この前の彼氏の話からしてもそうだ。
梨央ちゃんは、弱さを隠してしまう。
限界まで我慢しちまう。
目が離せない。
誰かがそばで支えてやんなきゃ。
いや…… "誰か" じゃねぇよ。
他の男に譲るつもりはない。