第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
ちゃんと話したい。
俺が明日、梨央ちゃんちから帰るまでに。
そう思っていたら、寝る場所がベッドしかないとわかる。
梨央ちゃんと一緒に寝る……。
邪な考えがないとは言えねーけど、ある意味チャンスだ。
俺は、抱えていた疑惑を投げ掛けてみた。
彼氏との付き合いの中で、それは梨央ちゃんにも心当たりがあったようで…。
梨央ちゃんは声を上げて泣いた。
"自分の努力が足りない"
"女として出来が悪い"
そんな風に思ってたって。
そんなことあるかよ…!
まだ15歳で親の修羅場を目の当たりにして傷ついて、学校ではいじめられて。
それでも明るくて優しくて、夢も持ってて。
それを実現させて、人を笑顔にしてる。
梨央ちゃんが、自分のこと出来が悪い女だと思ってたなんて。
梨央ちゃんに、そんなこと思わせてたなんて。
なんだよ、その男…!
殴り飛ばしてやりたいくらい、腹が立つ。
怒りで涙が込み上げてくるなんて初めてで、自分でも驚いた。
傷ついた梨央ちゃんの体を抱き締めてやることしかできなくて。
「梨央ちゃんは何も悪くない」って、そんな当たり前のことしか言えなくて。
酷くもどかしかった。
涙が落ち着いてからも、俺は梨央ちゃんを腕に抱いたまま寄り添った。
布団の中で微睡んでいく間際。
「彼と、別れる…」
そう小さく、梨央ちゃんは呟いた。