第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
梨央ちゃんと二人きりの部屋の中。
努めて普段通りにはしてみせたけど、梨央ちゃんと彼氏とのことが頭から離れない。
そんな暴言許しちゃいけねぇだろ?
百歩譲って虫の居所が悪かったとしても、土下座して謝れってくらい酷い言葉だ。
確か梨央ちゃん、言ったよな?
彼を怒らせた原因を聞いた時。
「梨央ちゃんが悪いのか?」って尋ねたら、「わからない」って。
"わからない" ―――?
どう考えたって梨央ちゃんに悪いとこなんてねぇ。
どうしちゃったんだよ、梨央ちゃん…。
グルグルと考えて、嫌な単語に辿り着く。
"モラルハラスメント" 。
確か、テレビの特集か何かで見たことがある。
被害者は男女関係なくいること。
真面目で優しい性格の人間がターゲットになりやすいこと。
モラハラは、浮気や肉体的な暴力と違って第三者の目に触れにくい。
だからこそ、被害者は自分の中で鬱屈としていくしかなくなる。
加害者を責めるのではなく、自分に非があるのだと思い込んでしまう。