第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
もう、心も頭の中もグチャグチャ。
酷いこと言われても、どんな冷たい態度されても、別れるって決断ができなかった。
だって、優しくしてくれることもあったから。
憧れてた人が、私を選んでくれたんだから。
でも、そうじゃない。
本当は気づいてた。
優しさで全てが帳消しになるわけじゃない。
心はこんなにも痛いままなんだから―――。
てっちゃんの腕の中は、すごく安心する。
居心地が良くて、じんわり温かくて、髪や背中を撫でてくれる手が優しくて。
この場所が欲しくなってしまう。
ほのかに感じるてっちゃんへの感情。
これを「恋」と呼ぶだなんて、自分でもおかしいってわかる。
だって今の私は、全くもって冷静なんかじゃない。
だから、今だけこの場所を借りよう。
そして、ひとつだけ決めたことがある。
しっかり自分で立てるようになったら……
その時は私、またこの腕の中を求めてもいい?