第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
精神的……暴力……?
私が……今まで耐えてたのって、暴力だったの……?
「わたし…、憧れてた人に…振り向いてもらえたから、彼の理想に近づかなきゃって…思ってて……」
「うん」
「自分が、女として出来が悪いからいけないんだって……。もっと、努力しなくちゃって……」
「それ全然違うから!」
てっちゃんの腕にまた包まれる。
脆くなった心を支えてくれるような、強い力で。
ギュッと締め付けられるけど、全然苦しくなんてない。
まるで、彷徨っていた暗闇の中から助け出してくれたみたいに安心できる。
私、修一さんの腕の中でこんなに安らげたことあった…?
いつ機嫌を損ねてしまうか、ビクビクしながら過ごしてた。
「私……我慢しなくてよかったの……?」
「梨央ちゃんは被害者。何も悪くなんてないし、耐えることなんて何もねーんだよ!」
そう……だったの……?
私、忘れられない。
酷い言葉や態度、冷たい修一さんの表情。
こびりついたみたいに頭から離れなかった。
修一さんの望む女性ならこうするだろうって、そんな想像ばかりして。
自分の意思すらわからなくなって……。
心が潰れちゃいそうだった―――。
「てっちゃんっ……私、もう嫌だ…!」
今まで耐えてたものが、音を立てて崩れていく。
抱き締めてくれる温もりにしがみついて、私は声を上げて泣いた。