第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「梨央ちゃん。お節介かもしんねーけど、言わせて」
「うん……」
「彼氏、梨央ちゃんを大切にしてくれてる?」
正直、即答できない。
最近では、私のこと本当に好きなのかもわからなくなってきた。
「さっきの梨央ちゃんの言うこと聞いてたらさ。生理中に無理に求めたりとか、『取り柄が他にない』みたいに言ったり。とても大切にしてるとは思えねぇよ」
「でも…」
いつもじゃないんだよ。
優しいところも、心配してくれるところも、ちゃんとあるんだよ。
てっちゃんはベッドを軋ませて起き上がった。
暗くて表情はよく見えない。
「梨央ちゃん」
真剣な彼の声。
私もゆっくりと起き上がる。
暗がりでやっと見えた瞳が、真っ直ぐに私を見据える。
「ハッキリ聞くけど。彼にモラハラ受けてない?」
「…………モラ…ハラ…?」
「聞いたことない?"モラルハラスメント"」
何?モラハラって、どんなだっけ?
聞いたことはあっても、意味までは頭にない。
「言葉や態度でパートナーを傷つけたり、支配しようとしたりすること。肉体的な暴力じゃなくて、威圧的な態度で相手を抑えつけるんだよ」
嘘……。
「身に覚え、ある?」
私は、小さく頷く。
「それ、ある意味暴力だよ。精神的暴力」