第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「……」
「……」
暫しの沈黙。
てっちゃんは小さく息を吐いて、お風呂上がりの無造作な髪の毛を掻き上げた。
やっぱり、まずいかな…。
そう思って少しうつむく。
「エッチなことすんなよ?」
空気を塗り替えるみたいなてっちゃんのおどけた口調と、腰を折って私を覗き込むニヤリとした顔。
一気に緊張が解ける。
「し…、しないよ!てっちゃんこそ!」
ムキになってそう言えば、「ウヒャヒャッ!」って変な笑い方でかわされる。
ホント、さすがっていうか。
変な雰囲気にならないようにしてくれた。
内心感謝しながら、私たちはひとつのベッドに入った。
二人で布団を被って、電気を消す。
改めて近づくと、スポーツしてただけあってやっぱりガッチリしてる。
"男の人"なんだって、嫌でも意識してしまう。
お互いなんとなく仰向けになって、天井を見ながら言葉を交わす。
「梨央ちゃんとこんな状態でいること知られたらさ。殺されるだろうな、俺」
至近距離にいるから、囁くような小さな声でも体に伝わってくる。
修一さんの姿を思い出す。
彼の、外の顔。
「彼は……私以外には感情的にならないから。たぶん、怒っても理詰めするだけ」
外では穏やかな紳士。
だけど、二人の時は怒ったり呆れたり、感情をストレートにぶつけてくる。
そんな性格だから、私は彼の顔色をうかがうクセがついてしまった。