第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
勘違いしてしまいそう。
心が揺れてしまいそう。
でもこれは、私が弱ってるからだよね?
それに、てっちゃんは昔から面倒見が良くてしっかりしてて、誰にでも優しいもん。
いつも研くんのこと気にかけてあげてたし、中学でも高校でもバレー部のキャプテンで。
私だけが特別じゃない。
「ごめん、先にお風呂入っていいかな?」
「ああ」
てっちゃんに断って、先にお風呂で温まることにする。
体も髪も綺麗にしながら、これはてっちゃんの優しさだって自分に言い聞かせる。
そしたら、くすんだ心も少しだけスッキリした。
「今お湯入れ直してるから。溜まったら入ってね」
「サンキュー。出張の用意がここで役立つとは思わなかったな」
そんなこと言いながら、バッグから下着や部屋着や歯ブラシを取り出してる。
私が髪を乾かしてる間にお湯も溜まって、てっちゃんは浴室に入っていった。
そして、私たちは困ったことに気づく。
お客さん用の布団はうちには置いてない。
つまり、ベッドがひとつ。
「……」
「……」
「あ……私、ソファーで寝るね」
掛け布団だけは余分にあるから大丈夫!
クローゼットから布団を引っ張り出してきて、ソファーに向かう。
すると、それを止めるみたいにてっちゃんに腕を掴まれた。
「待て待て。梨央ちゃん生理中だろ?ちゃんとベッドで休みなさい。俺がソファー使うから」
「え!?てっちゃんじゃ無理だよ」
190センチ近くある、てっちゃんの体。
うちの一人暮らし用のソファーに収まるワケがない。
「てっちゃんこそ、今日福岡から帰ってきたところでしょ?ここじゃ休めないよ。明日も仕事なのに…」
お互いにベッドを譲り合って、埒が明かない。
こうなったらもう、……仕方ないよね?
「あの……嫌じゃなければ、一緒に……寝る?ベッドで」