第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
わかってる。
変な空気にならないように、いつもどおりにしてくれてるんだよね?
こんな風にふざけて笑えるのって心地いい。
修一さんに傷つけられた言葉が、頭の隅に追いやられてく。
「あ!もしかして、ごはん食べてないよね?」
「気付いてくれてありがとう」
「ふふっ。何でそこ遠慮するの?何食べたい?ごはん?ラーメン?パスタ?うどんもあるよ」
「いや、コンビニで買ってくるし。梨央ちゃん腹痛ぇんだろ?」
「薬飲んだから今は全然痛くないよ。だから遠慮しないで」
ちゃんと気遣ってくれるんだね。
やっぱりそういうとこ、優しい。
「そっか?じゃあ、うどんで」
「オッケー。テレビでも見てて?」
「はいはーい」
テレビをつけて適当なニュース番組で手を止めると、てっちゃんはソファーに腰を落ち着けた。
うどんを作るのに大した時間は掛からない。
火を通したうどんと、ネギとかまぼこと椎茸。
それから卵を落として。
お椀に盛り付けたら、お盆に乗せてリビングへ。
「お待たせ。よかったらこれも」
テーブルの上にうどんを乗せて、白菜の漬物と枝豆を添える。
「サンキュー。いただきます!」
きちんと手を合わせて箸を取る。
意外とこういうところもちゃんとしてる。
スルスルうどんを啜って、大袈裟なくらい「美味いー」ってしみじみしてる。
「ただのうどんだよ?」
「 "ただのうどん" じゃねーよ。 "梨央ちゃんが作ったうどん" だろ?」
「……」
もう……何でそんなに優しいの?