第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
絞り出すような、てっちゃんの声。
この腕の温かさに包まれてしまったら、もう寄りかかることしかできない。
「てっちゃ…」
名前を呼ぼうとすると、もっと強く抱き締められた。
「梨央ちゃんは悪くねぇ!悪いとこなんかひとつもねぇよ……!明るくて優しくて綺麗で、すっげー魅力的な女だから!」
「……」
ありがとう。
少し褒めすぎだけど、でも私、誰かにそう言って欲しかった。
自分をなくしちゃう程、自分を変えようとして。
正しいことと間違ってること、その判断もできないくらいに、修一さんに囚われて。
ありのままの私を、認めて欲しかったんだよ。
彼の温かさを求めて、力なく垂れ下がってた両腕を大きな背中に回した。
てっちゃんに抱き締められたのは、これで二度目。
一度目は、お父さんを亡くした時。
どん底にいる時助けてくれるのは、いつもてっちゃんだね。
甘えてごめんなさい。
でももう少しだけ、そばにいて?
「なあ、梨央ちゃん」
てっちゃんの声が体に響いてくる。
それから少し腕の力を抜いて、私の顔を覗く。
「今夜、一緒にいていい?」
「……え?」
「梨央ちゃんのそばにいたいっていう、俺のワガママ」
「……」
「絶対に何もしねぇから」
「……」
「ダメか?」
どうして?
てっちゃんには私の気持ちがわかるみたい。
私がそうして欲しいって、何でわかるの?
どんな顔をしたらいいのかわからなくて、私はうつむく。
「……一緒に…いて…?」
ほんの小さな声だったけど、てっちゃんには届いたらしい。
大きな手が髪を撫でた後、私の頭はまた、彼の胸元に預けられた。