第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
クリスマスにお正月、バレンタインにホワイトデー。
何度か雪がちらついた冬は、終わりを告げる。
桜の時季から新緑の頃は流れるように過ぎ去り、鬱屈とする梅雨も明けた。
毎日容赦なく地上を照り付けている日射し。
こんな日が続けば、エアコンの冷気で満たした快適な空間で休日を過ごしたくなるもの。
しかし寒かろうが暑かろうが元気な奈々子さん。
今日も相変わらずの弾んだ声で、それを持ちかけた。
「旅行?」
「うん。お正月は仕事でゆっくり出掛けられなかったでしょ?夏休み使って旅行しようよ!」
キッチンからは、ガリガリ忙しない音が響く。
彼女は今、ネットで購入したというかき氷機でかき氷を作るのにハマッているのだ。
まあ、三日くらいなら纏まった休みもとれそうだし。
そもそも家で二人でのんびり過ごすなんて、いつでもできるし。
「いいんじゃない?どっか行きたいとこあるの?」
「うん、ある!」
海?山?テーマパーク?温泉?
奈々子さんはどこに行っても楽しめそうだよね。
「あのね…宮城、行ってみたいな…」
氷を削る音がピタリと止まったかと思えば、こちらを窺うように声色が変わった。
対面式のキッチンからリビングのソファに座る僕を見つめ、ジッと返事を待っている。
そんな遠慮がちにならなくても。
最初にそうしたいって言ったのは、僕の方だし。
「うん、行こっか」
「ほんと…?」
「うん」
「嬉しい!蛍くんが育った場所、見てみたかったんだ。あ、明光くんにも久しぶりに会えないかなぁ?」
ハ?何でそこで兄ちゃん?
モヤッとした僕の心中などお構いなしに、奈々子さんはこんもりとした氷の上にイチゴのシロップを垂らしている。
どうやらひとり言だったようで、僕の返答がなくても何も言わない。