第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
ひとしきり甘美な触れ合いに浸ったあと。
サラサラの髪を撫でながら蕩けそうな頭を揺り起こし、ほんのり赤くなった彼女の耳元で囁く。
「ねえ、一緒に暮らそっか」
至近距離にある二つの目が丸くなる。
何でそんな驚いてんの?昨日話したじゃん。
「夕べのアレ、酔った勢いで口が過ぎたとでも思ってる?」
「そんなこと思ってないけど…。でも、ホント?付き合い始めた次の日に決めていいこと?蛍くん、後悔するかもよ?」
「グイグイ来る割にそういうとこは現実的なんだね。
じゃあ、付き合い始めた次の日にこんなこと思ったのは初めて…って言ったら、信用できる?」
自分でも不思議。
奈々子さんへの想いを自覚した途端、坂道を自転車で駆け下りるみたいに、 "好き" が加速していく。
想いが通い合うって、こんなに幸せを感じるものだっけ?
経験がないわけじゃないのに、何故か思い出せない。
相手が奈々子さんだから…?
たった一人の人とそうなったら、誰もがこんな感情に浸るもの?
黒尾さんと梨央さんも。
赤葦さんと汐里も。
今の僕みたいに、思ってた?
「蛍くん、嬉しいよ…。私、幸せ…」
「……僕も」
よかった。
誰よりも、君が同じ気持ちでいてくれて。
ゆっくり、優しく、触れ合うだけのキスを交わす。
そう言えば。
「あのさ、…」
ひとつ気になってたことがある。
天真爛漫でコミュ力あって、LINEのメッセージには『!』マーク。
五年も風邪引かないような健康体かつ、陸上で入賞する程の体育会系って…
「奈々子さんてホントに木兎さんとは友達…なんだよね…?」
僕、この人たちにハメられてない…?
実は双子の兄妹とか言われたら、色々心構えってものがいるんだケド…。
「もしかして、元カレじゃないか…とか思ってる!?もうっ、木兎と私に何かあるわけないじゃない!」
ほんの僅かな疑惑を吹き飛ばす、奈々子さんの清々しい笑顔。
「そんな心配してたの?蛍くんってばかわい〜いっ!」
僕にギュウギュウ抱きついて、何度もほっぺにキスしてくる。
「…ソッカ、ヨカッター」
うん、ひと安心。
木兎さんと親族になるかもしれない…というハチャメチャな未来予想図は、どうやら僕の杞憂に終わった。