第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
「前から聞きたかったんだけどさ…」
「なあに?」
奈々子さんの体を抱き締めながら布団にくるまり、微睡みを待つ。
二人で眠るには充分な広さのベッドではないけれど、それすらちょうどいい。
ここに横わたっているのは体を休めるためではなく、一晩中奈々子さんをこうしていたいから。
そんなことを思う中、僕から口を切る…んだけど…。
こんなこと聞くの、女々しいかな…。
「どうしたの?蛍くん?」
「…いや、うん…」
つい言葉を濁す僕の頬に、何かが触れる。
奈々子さんの唇だ…。
「何でも聞いて?」
そう囁く奈々子さんの声色は、優しくて穏やか。
何だか悔しいけど、妙にオネーサンっぽい…。
ま、いっか…。
奈々子さんは僕が何を聞こうが、女々しいとかカッコ悪いとか、きっとそんなこと思わない人だ。
「あの…さ…、僕のどこが好きなの…?」
ハッキリ言って僕は、女の人が喜ぶようなことをするのが苦手だ。
お世辞は言えないし、おだてるのも無理。
分かりやすい優しさとか、そういうものもあげられない。自分でわかってる。
だからこそ、好きって言ってくれてもそれが僕のどの部分を言ってるのか…
あんまり、自信が持てない…。
「え?いっぱいあるよ!冷静で落ち着いてるとことか、ちゃんと私の話聞いてくれるとことか、困ってる人ほっとけない優しさとか。
あ、でもね。一番好きなとこ、わかる?」
「…さあ?」
「あのね、嘘のないところ!」
二つの大きな瞳が、真っ直ぐ僕を見る。
「蛍くんは、人から好かれるために自分を取り繕ったりするタイプじゃないでしょ?嘘も建前もないから、蛍くんのこと、まるっと信じられる。蛍くんがくれる言葉も態度も、疑わなくていいの。だから私、すっごく安心できるんだよ」
「……ふっ、」
思わず笑みが漏れる。
何かそれって…
「面白いね」
「…私、面白いこと言った?」
こんなことってある?
性格が真逆の僕たちなのに。
惹かれた理由は同じ…なんて。
「ありがと。もう、十分」
後ろ向きな僕を打ち消してくれた奈々子さんを、もっと強く抱く。
離さないよ、ずっと。
君が幸せを教えてくれた夜。
東京には、この冬初めての雪が降った。