第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
「ゴホッ…、速くない…?走るの…っ」
「はぁっ、陸上、短距離やってたから…っ、一応、都大会、入賞してる…」
なるほど…。って、何それ?聞いてないんだけど…
いや、それより…
「奈々子さん、ごめん…」
「…謝らなくていい」
「え…」
奈々子さんは、頑なに僕の顔を見てくれない。
「私とは…もう会えない?」
「何で…?」
「だって、さっき女の子の名前…」
「あれは、」
「デート…海に行きたいって言ったのはね、ちゃんと他に理由あるんだよ」
だんだん震えてくる、奈々子さんの声。
僕に腕を掴まれても、顔は背けたまま。
「…何?」
「自分一人じゃ、あんな遠くの海まで行かないから。普段よく行くような場所でデートしちゃったら、通る度に思い返して辛くなるでしょ…?」
「……」
「…蛍くんに、フラれた時」
遂には肩を震わせ、声が失われた。
そっと手を引く。
肩を掴み向かい合わせになってみれば、奈々子さんの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちていくのが見える。
あんなに前しか見てないような人が…
怖いものなんてないってくらい、いつでも想いをぶつけてきてくれた人が…
そんな風に、自分を守ってたなんて。
僕のせいで泣いてるなんて。
ああ…もうダメ…
完全に、落ちた…。