第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
「あ…明光くん、帰っちゃったよ?ちゃんとベッドで寝てね?じゃ、私も帰るから。お邪魔しました、おやすみ!」
早口でそう言いながらコートとバッグを掴み、僕の顔を見ることなく逃げるように家を出て行ってしまう。
「……違う、から」
寝起きでクラクラする頭を無理矢理立て直し、何も持たずに家を飛び出した。
アパートの階段を降りた先、奈々子さんが駅の方角に歩いて行くのが見える。
「奈々子さんっ…!」
その背中に向かって呼び止めると、一瞬身を固くしたあと……何故か突然走り出す。
え!?何で逃げるのさ!
今ここで話をしないわけにはいかない。
僕も奈々子さんを追って階段を駆け降りる。
ごめん、奈々子さん。
悪いのは僕だから……だから……
聞いて欲しいんだ。
ていうか、走るの速っ!
すぐに捕まえられると思ってたのに。
奈々子さんとの距離は、すこーしずつしか縮まらない。
勘弁してよ…!
これでも全速力で走ってるってのに、女の人に追い付けないってどういうこと…!?
それでも意地で追いかけていれば、ヒールを履いてる奈々子さんは徐々にスピードを落として……
「……っ、捕まえたっ…!!」
ようやく掴んだ奈々子さんの腕。
明日、筋肉痛決定…。