第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
その後も、相変わらず盛り上がる二人。
この人たちは誰にだってこんな感じだし、深い意味なんてないのはわかってる。
わかってるんだけど…
奈々子さんの笑顔は、いつだって真っ直ぐ僕に向いてたじゃん。僕だけに。
他のものなんて見えないって感じで、「好き好き」って直球で。
だから、つまり…
アレだよ、アレ。
要するに…
兄ちゃんと楽しそうに笑ってるのが、気に入らない…
ってことだと思う…、たぶん。
勝手なのは承知だよ。
告白してくれた奈々子さんの気持ちに、ずっと応えられずにいるのは僕だ。
兄ちゃんの言うとおり、いつまでも待っててくれるなんて考えは甘いって知ってる。
僕が彼女を縛る権利もない。
だから、奈々子さんは何も悪くなくて…
悪いのは、自分勝手な僕なんだ。
きっと、ハイペースで飲み過ぎた。
いいのか悪いのか酔うことはない体質だけど、こんな飲み方をすると極たまに猛烈な眠気に襲われることがある。
今夜は、その "極たまに" の日だったらしい。
いつの間にか深い眠りに落ちていた僕。
微かな声に呼ばれた気がして、意識がふわりと浮かび上がった。
「蛍くーん、起きよー?コタツで寝ると風邪引くよ?」
「ん…」
「蛍くーん?」
「んー…」
「蛍くんてばー。蛍サーン。月島サーン。ツッキー。ツキツキツッキー!」
ここって…木兎さんちのリビング…だっけ…?
今日飲んでたのって、いつものメンバー?
あー…、何かボーッとする…。
やっぱコタツで寝るとこうなるよね…。
ていうか、ツッキーツッキーって…
相変わらずうるさいな…
「わかったって…。しつこいよ、汐里」
……じゃない、
奈々子さん…!
微睡みを彷徨っていた僕は、一気に目を覚ます。
片手を着いて体を起こしてみれば、そこにはしゃがんだ状態で僕を見ている奈々子さんがいた。
動きを止めたまま、ポカンと口を開け、呆気に取られた顔をしてる。
"ツッキー" なんて呼ぶから、てっきり…。