第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
「今日はありがとう、蛍くん。楽しかった。で、まだ楽しみが続くなんて最高!」
別れ際、奈々子さんは僕があげたプレゼントを掲げて笑う。
「うん。これ、ありがと」
「ううん。それじゃあ、お兄さんと楽しんでね」
奈々子さんは駅へ。
兄ちゃんと約束した五時にはまだ早いから、時間を潰すために僕は本屋へ。
それぞれの目的地に向かおうとした時。
「あれ?蛍!」
聞き覚えのある声が、僕を呼んだ。
振り返れば、呑気な笑顔で近づいてくるスーツ姿の兄ちゃん。
「仕事早く終わったからさ、この辺ブラブラしてたんだ」
「そうなんだ。お疲れ」
「元気だったかー?父さんも母さんも忠も、みんな蛍に会いたがって…」
歩み寄ってきた兄ちゃんの視線が、僕から奈々子さんに移る。
「あれ。もしかして、彼女?」
「違う。…友達」
「初めまして、蛍の兄です」
「初めまして、奈々子です」
「蛍がいつもお世話になってます」
「いえ!私の方がお世話になってます」
…何の挨拶?
僕を余所に世間話を始める二人。
「え、奈々子ちゃんもう帰っちゃうの?何か用事?」
「いいえ。元々今日はランチの約束だったので」
「じゃあこのまま一緒に晩飯も食おうよ」
「そんな、兄弟水入らずの中お邪魔するの悪いですから…」
「別に悪くないよ。なぁ、蛍?」
今度は突然、話を僕に振る。
正直、兄弟水入らずも何もない。
「奈々子さんが大丈夫なら」
「ほら。ね?行こうよ、奈々子ちゃん」
「ほんと…?お邪魔じゃない?」
僕を見上げる奈々子さん。
普段は積極的なのに、兄ちゃんがいるからか何故か遠慮がち。
「邪魔ならそう言うし」
「…うん!」
僕が返せば、いつもの笑顔で笑う。
「よーし、じゃあ行こうか。…あ、ごめんね、会社から」
兄ちゃんは少し離れた場所で電話を始めた。
ボンヤリ待ってると、奈々子さんに腕をつつかれる。
「まだお別れしなくていいの、嬉しい」
「……」
そんなに僕といられて、嬉しい?
幸せそうに笑っちゃって。
その笑顔の理由が僕だなんて…
何か今、すごく…
奈々子さんが、可愛いよ。