第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
「さぁ!どこ見に行こっか?」
「向かいのビルでいいんじゃない?雑貨とかも入ってるデショ。確実に野菜はないだろうけど」
会計を済ませ、カフェの扉を開くためドアノブに手を伸ばす。
しかしそれを掴むより先に、僕たちの向こう側へ開かれるドア…。
僕らと入れ替わりに店に入ってきたのは…
「あ…」
「月島…?」
「ツッキー!?」
赤葦さんと、汐里。
二人手を繋いで寄り添う姿が、目に飛び込んでくる。
どうやら付き合いは順調らしい。
仲良さそうで、何より。
「どーも。デート?」
「うん。久しぶりだね、ツッキー」
「最近月島が付き合い悪いって、木兎さんボヤいてたよ」
「はぁ…適当に誤魔化しといてもらえます?」
あの人といると、 "奈々子さんとのことを詮索する会" に早変わりするから避けてるんだよね…。
「ねえ、あかーしくん…だよね?」
「…あ。奈々子先輩?」
一瞬だけ考える素振りを見せたものの、赤葦さんはすぐに記憶の糸を手繰り寄せたらしい。
「わ、覚えててくれてる!嬉しい!久しぶりー!」
「お久しぶりです。まあ、木兎さんとはコンビみたいなものだったし…っていうか、何で月島?木兎さんじゃなくて?」
「えへへ。実は私、蛍くんの彼女に立候補中なの」
「え?」
奈々子さんのド直球。
赤葦さんが驚愕してる顔なんてそうそう見られるもんじゃない。
汐里も大きな瞳を瞬かせ、僕たちを交互に見つめた。
「変なこと言ってるとプレゼント買わないよ。じゃ、お先でーす」
「あ、ねえ!怒った?」
「呆れた」
「ええ?ごめーん!待って!」
さっさと店を出る僕と、慌てて付いてくる奈々子さん。
自分でもビックリ。
赤葦さんと汐里が二人でいるとこ見ても、もう全然痛くないや…。
さっき汐里の姿を見た時。
何か懐かしい感覚になったのは、そういうことなのかな。
改めてわかった心の変化が、こんなにも嬉しいなんて。
ちゃんと過去になってる。
心から二人の幸せを喜べる自分になったんだ…。