第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
奈々子さんとはあのデート以降も連絡はとっているものの、仕事の都合がつかず会えない日々が続いていた。
そんな中、僕のスマホに一件の電話が入る。
話をするのは久しぶりだ。
相変わらず呑気な声。
ヘラヘラ笑ってるのも想像がつく。
「正月は帰省できるのか?」「たまには母さんに連絡してやれ」とせっつくから、取り合えずは頷いておいた。
で、本題はそのあと。
『土曜日出張で東京行くんだけどさ。蛍、会える?』
「休みだからいいよ。うち泊まる?」
『いや、会社がビジネスホテルとってるから大丈夫。次の日早いしさ』
「そう。兄ちゃん仕事終わるの何時?」
『たぶん、四時くらいかな』
「五時に駅に待ち合わせでいい?」
『オッケー。じゃあ、またな』
お盆は纏まった休みが取れなかったから、会うのは正月ぶり。
僕が宮城に帰ると、決まって兄ちゃんも実家にやってくる。
あれ食え、これ飲め、小遣いやろうか?
…と、取り合えず母さんよりうるさい。
僕が社会人ってこと、たぶんあの人の頭の中からは抜けている気がする。
食事だけ外で食べて、ゆっくりうちで飲むのもいいかな…なんて考えていると、再び忙しなく着信音が鳴った。
「また兄ちゃん?何…」
言い忘れたことでもあるのかと、スマホを手に取る。
そこに映し出された名前は…
「奈々子さん…」
いつもならLINEで連絡が来るのに、どうしたんだろう…。
「もしもし?」
『もしもし、蛍くん?今いい?』
「うん」
『この前、土曜日仕事だって話したじゃない?でもね、休日出勤が次の週に変わったから、土曜日休みになったの!まだ予定空いてる?』
あー…何てタイミング。
「ごめん、兄が仕事でこっち来るから、会うことになったんだよね」
『蛍くんお兄さんいるんだぁ。そっか、じゃあ仕方ないね。楽しんでね、また連絡する』
「あ、待って」
『何?』
「会うの夕方からだから。お昼、一緒に食べる?」
『え!いいの!?』
電話越しの声だけで、弾けるような笑顔が浮かんでくる。
無意識に綻んでしまう、僕の頬。
「いいよ。食べたいもの、考えといて」
『うん!』
久しぶりに聞いた奈々子さんの声に、何だか和んでしまった。
そういえば、会うのにこんなに間が空いたの、知り合ってから初めてだ。