第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
その後は、寒々とした海を眺めながらドライブして、お目当てのカフェに入った。
席に案内されるまで30分は待つって言うから奈々子さんに悪いかと思ったんだけど、「お腹空かせた方が美味しいよー」なんて言ってくれて、今に至る。
「甘いもの好きなんて、意外だね」
僕の前に置かれた、苺のショートケーキ。
それを眺めながら奈々子さんはコーヒーを口にする。
「似合わないとか思ってんの?」
「ううん思ってないよ。お酒好きな人って、甘いものはそこまで…って人、多い気がする」
「ああ、かもね」
「私のチーズケーキも食べる?」
「…食べる」
「あーんしよっか?」
「間に合ってマース」
「遠慮しなくていいのにー」
やっぱり楽しそうに笑う奈々子さん。
僕もたぶん、楽しんでる気がする。
今日ここまで来てよかったって、そう思ってるから。
お土産にってことで、お互いこの土地のお酒を購入し、夕食も済ませた帰り道。
心地いい暖かさの中寝入っていた僕は、車のドアが開く音で目を覚ました。
「あ、起こしちゃった?ガソリン入れてたの」
「ごめん、寝てたね…」
「大丈夫、今日ずっと運転してもらったんだもん。疲れてるでしょ?寝てて?着いたら起こすから」
「いや、少し寝たらスッキリした。運転代わる」
「ううん。何かね、今日すっごく楽しくて幸せだったから興奮しちゃってて。何かしてないと落ち着かないの!」
エンジンをかけたあと、弾む口調でそんなことを言う。
今からもう一度どこかに出掛けるのかってくらい、元気いっぱい。
正直、奈々子さんに振り回されてる感じがする時もあるけど…
でも、心は楽だ。
なんでだろ…不思議。
奈々子さんの口から出てくる言葉は、全部スッと入ってくる。
嘘も建前も誤魔化しもないってわかる。
変な邪推もいらない。
「楽しい」
「嬉しい」
「幸せ」
「また会いたい」
「好き」―――。
まるで、耳心地のいいメロディーに乗る歌みたいに…
あなたが唄うラブソングは、僕の心に確かに届く。