第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
「私あの人のことばっか責めてるけど、私にもいけないところはあったんだ…」
落ち着いた声でそう呟き、両手で缶コーヒーを包み視線を落とす奈々子さん。
僕も同じように、静かに返す。
「例えば?」
「好きって言い過ぎたかな…とか」
「悪いこと?ソレ」
「連絡し過ぎでウザかったかも」
「どのくらい?」
「二日に一回くらい。夜、寝る前」
「付き合ってるならおかしくはないデショ?毎日連絡取り合う人たちだっているよ」
そりゃ、二日に一回だって仕事が多忙なら負担かもしれないけど。
奈々子さんはそういう空気を読めない人じゃない。自由だけど、わきまえてる。
何より、僕だけが聞いてしまった元カレの会話…。
「そんなに好きじゃなかったんじゃない…?奈々子さんのこと」
僕がこんなこと言わなくても、きっととっくにわかっていたのだろう。
「…うん。だと思う」
奈々子さんの瞳に影が落ちた。
「未練あるの?まだ」
「え?ううん、それはない!二股とか無理だから!それに私、言ってるでしょ?蛍くんが好きだって!」
「本気?寂しいから、とかじゃなくて?」
僕の言葉で、奈々子さんの声が一瞬つまる。
「そんな風に…思ってた?」
真っ直ぐにこちらを見つめる、寂しげな瞳。
奈々子さんはたぶん、偽ることができない人だ。
そのくらいは僕にももうわかる。
「ううん。思ってないよ」
ごめん、奈々子さん。
今のはただ、僕が狡いだけ。
僕といる時に楽しそうにしてくれてるのも、満面の笑みでくれる「好き」も…
全部僕だけに向けられてる気持ちだってこと、確かめたかったんだ。
きっとみんな思ってる。自分一人だけを愛して欲しいって。
他の誰かと比べて好きだとかそういうことじゃなくて、絶対的な愛情が欲しいって。
僕だって人並みにそう思うし、それに…
奈々子さんも、そうなんだよね?
彼女の想いを改めて知った今、心に釘を刺す。
隣に寄り添うには、その気持ちに応えられるくらい迷いのない自分じゃなきゃ。
中途半端な僕のままじゃ、あなたを抱き締めてあげることは出来ないよ。