第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
季節は冬。
東京じゃまだ雪こそ降らないけど、暖房器具、コート、ダウン、マフラー、手袋…そう言った寒さを凌ぐためのアイテムは欲しいこの時季。
今日の気温はまた一段と低い。
暖められた部屋の中でホットコーヒーでも飲みながら、のんびりとした一日を…。
僕なら間違いなくそんな休日を選択する。
ところが…
「さむーいっ!!」
「だから言ったじゃん!!」
僕たちは今、風に揉まれながら砂浜の上に立っている。
目の前には、飛沫を上げる荒波…。
デートの約束をした数日後。
完全復活した奈々子さんから連絡があった。
行き先をあれこれ話してたら、この人が突然「海に行きたい」とか言い出したのだ。
モチロン釘刺したよ、僕は。
冬の海なんか寒いって。
でも奈々子さんは僕と海デートがしたいらしくてさ…。
近くには前から行きたかったカフェも地酒が買える店もあるし、まあいいかと思って了承した。
目的地まで約一時間半、どうせなら移動も快適な方が良いかと思い、レンタカーを使って。
自分で自分を誉めたいのは、車でここまで来たこと。
この寒さの中、避難する場所があるのは非常に助かる。
「車戻るよ!風邪ぶり返したらどうすんの!?」
波音と風で聴覚がハッキリしないながらもそう叫べば、同じように「わかったー!」と返ってくる。
海辺を歩いたのは、ものの数分。
ホント、何しに来たんだろ…。
「ふーっ、寒かったね」
「当たり前デショ…」
雪崩れ込むように車内に入る僕たち。
シートに背中を預けるより先に、エンジンをかけ暖房を付ける。
「でも、楽しかった!」
「え?どの辺が?」
「特別素敵なことじゃなくたって、蛍くんと一緒なら楽しいんだよ」
無垢な笑顔でそんな風に言われると、反論する方がバカバカしいと言うか…。
「まあ、奈々子さんが楽しいならいいよ…」
「……蛍くんて、優しいね」
そう言って僕を見る彼女の顔は、打って変わって落ち着きを取り戻す。
「私、あったかい飲み物買ってくる。何がいい?」
「じゃあ、コーヒーよろしく」
「はーい」
財布ひとつだけ持って、奈々子さんはすぐそばの自動販売機へ飲み物を買いに行った。