第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
寂しそうな顔なんて、しないでよ。
こんな風に考えてしまう僕は、一体奈々子さんとどうなりたいんだろう。
友達とか恋人とか、ちゃんとした答えがないのはスッキリしない。
だけど、もう少し奈々子さんを知りたいとは思う。
天真爛漫で真っ直ぐで嫌味なんて通じなくて、そんでもって怒らせると怖い女の人。
僕が知ってるそういう奈々子さん以外の顔も、見たいって思うよ。
だから…
もう少し、あなたの時間をちょうだい?
「…今度、どっか行く?元気になったら」
僕の言葉を聞くなり、一気に華やぐ奈々子さんの顔。
「ほんと…?」
「うん」
「デート?」
「…まあ」
「や…、嬉しい!」
そう声を弾ませて、僕の体に勢いよく抱きついてくる。
「蛍くん、好きっ!」
初めてこんなことされて、悔しいけど鼓動は勝手に跳ねる。
その上、僕との些細な約束で喜んでくれる奈々子さんのこと、 "可愛い" って…ちょっと思ってしまった。
「風邪うつるから離れてくんない?」
「はーい」
口では素っ気ないこと言ってみても、特に嫌ではない。嫌なら力づくで引き剥がしてる。
素直に体から離れた奈々子さんは、今度は嬉しそうに僕を見上げてくる。
「ちゃんと寝るんだよ」
「うん。でもね、蛍くんが来てくれたおかげで、もう治った気がする」
「んなワケないでしょ。僕、神様じゃないよ」
「神様じゃなくたって、蛍くんは私を元気にしてくれる人だよ。
さっき一人の時ね、蛍くんのこと考えてたの。会いたいなーって。そしたら電話くれて、家まで来てくれて!すっごく嬉しかった…。
ヒーローみたいだね、蛍くんは」
……またこの人は。
ナイトとかヒーローとか、そういうキャラじゃないってば。
でも、奈々子さんが口にする言葉にいつも嘘はないから。
"会いたい" って思ってくれたことは、ほんの少ーしだけ、嬉しい…かも、しれない。
「早く治しなよね」
「え?」
「デート、するんでしょ?」
「うん…!楽しみにしてる!」
笑顔で見送ってくれる奈々子さん。
まだ本調子じゃない姿を視界に映せば、あと少しだけそばにいてあげたかったような…。
心の中に潜んでいたのは、そんな気持ちだった。