第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
「…今自分で食べてたじゃん」
「でもせっかく蛍くんいるんだから、あーんして欲しい」
「……」
子どもじゃないんだから…と思いつつ、掠れた声と紅潮した顔でそう言われると、僕の手はついついそれを受け取ってしまう。
「薬も買ってきたから、食べたら飲むんだよ。あとトローチも」
「うん」
「何食べたいの」
「メロン」
「ドーゾ」
カップの中のメロンにフォークを刺し、奈々子さんの口元へ持っていく。
パクリと食いついた奈々子さんは、嬉しそうにそれを頬張った。
「冷えてて美味しい」
「寒空の下歩いてきたからね」
「そうだよね、ホントにありがとう」
「……」
憎まれ口でさえ素直に受け止められると、これ以上は何も言えなくなる。
パイナップル、りんご、キウイ……結局僕は、カップの中のフルーツを全て言われるがまま食べさせてあげた。
熱出して弱ってる奈々子さんのことが気になって、電話して買い物して洗い物してフルーツ食べさせてあげて薬飲ませて。
…って、ホント何これ!
僕たち、付き合ってるわけじゃないんだけど!
水を飲みほした奈々子さんが、大きく息をつく。
相変わらず顔は赤いし、目も潤んでる。
額にはいつ貼ったものなのかもわからない、干からびそうな冷却シート。
「それ、貼り変えれば?」
もうここまで来たら、世話の上乗せくらいしてあげるよ。
箱から新しいものを取り出して、奈々子さんの額にピタリと貼った。
「冷たい…気持ちいい…」
「だろうね。じゃあ僕帰るから。ゆっくり休んで」
「うん…。今日はありがとう、来てくれて」
玄関に向かう僕のあとから、奈々子さんも付いてくる。
靴を履くためスリッパから足を抜いたところで、僕の指先はキュッと掴まれた。
「何か、寂しいな…」
引き止めるのは奈々子さんの手…。
「……あ、違う、うそ!もう十分してもらったから大丈夫!気を付けて帰ってね」
そう言って、慌てて手を離す。
けど…言葉とは逆に浮かない顔。
体が辛くて心細いのかな。
奈々子さんて、意外と甘えるタイプ?
改めて向かい合い、髪がピョンピョン跳ねてる奈々子さんの頭にそっと手のひらを乗せた。