第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
奈々子さんの体の向こう側には蛍光灯が煌々と灯されていて、嫌でも中の様子が目につく。
「ていうか…汚部屋…? "遊びに来て" なんてよく言えたよね」
「わー!違うの!昨日から体調怪しかったから家事ほったらかしで寝てただけで!しかも今日ゴミの日だったのに体辛くて出しそびれて!いつもはもっとマシなんだよー!」
玄関の脇には大きなゴミ袋。
鍋やお皿が突っ込まれたままのシンク。
フローリングの床には洗濯物が散乱している。
「…洗い物くらいならしてあげるけど。上がっていい?」
「いいの…?」
「いいよ」
「あ、待って!マスクするから!蛍くんにうつしちゃう!…っていうか、マスク家になかったような…」
「よかったらどうぞ」
ドラッグストアの袋の中から、マスクを取り出して渡す。
「ごめんなさい…」
「寒いから入るよ?お邪魔シマース」
ちょっとだけ助けてあげるつもりで、奈々子さんの家に入った。
まさかこんな形で彼女の家に上がり込むなんて。
この前ここに来た時の僕には、想像もできない展開だ。
「ほんとありがとね、蛍くん。来てくれて。実は一人で心細かったんだ…」
「…食べられるもん食べなよ」
コンビニの袋ごと奈々子さんに渡すと、ガサゴソ中を覗く。
ヨーグルトにゼリー、プリン、カットフルーツ、アイスクリーム、インスタントのスープに、カップのうどん。
こんだけあれば、どれかは食べられるでしょ。
「わ、いっぱいありがとう…!じゃあカットフルーツもらう」
「うん。他は冷蔵庫入れとくよ」
コンビニ袋を受け取り、冷蔵庫を開く。
中には肉とかナスとかニンジンとか、要するに調理しなければ食べられないものしか入っていなかった。
「今日ほんとに何も食べてないの?」
「うん…」
「薬は?」
「飲んでない。風邪薬、使用期限が五年前だったから飲むのやめた」
「五年前って!五年風邪引いてないの!?」
「引いてないっぽいね」
まるで他人事みたいな言い方だ。
カットフルーツの蓋を開け、少しずつかじる奈々子さん。
その様子を見ていれば、ヘラッと笑ってカップごとこちらへ寄越す。
「ねえ、蛍くん。食べさせて?」