第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
奈々子さんのこと、まだ僕にはよくわかんない。
だから、こういう時の彼女がどうするのかも曖昧。
だったら確認するしかない。
奈々子さんの電話番号をタップして、応答を待つ。
コール音が数回。
それがプツリと途切れたあと、女の人の声に変わる。
『もしもし…?』
いつもの声……じゃない。掠れてる。
「すいません、寝てました?」
『うん…、ついさっき起きて。あの、ごめんね、今日』
「それはいいですよ。体調どうですか?」
『まだ熱あるみたい。関節痛いし、喉も痛くて…』
「ごはんは?」
『食べてない…』
明らかに普段の奈々子さんと違う。声も、喋り方も。
やっぱり、連絡してよかった。
「わかりました。じゃあ適当に買って持って行くんで。待っててください」
『え…、え!? "持って行く" って、うちに!?』
「他にどこ持ってくんですか。あ、すぐ帰るんで部屋が汚いとか余計な心配しなくて平気ですからね。じゃあ、後で」
早口でそう言い、通話をオフにする。
気を持たせるようなことは避けるべきって、確かにそう思ってたのに。
弱ってる奈々子さんの声聞いてたら、勝手に口が動いてた。
大体僕は人の世話を焼くような人間じゃないんだよ。
それなのに、何でほっとけないんだろう。
頭の中と行動が伴わない何とも言えないモヤモヤした感覚を抱きながら、ドラッグストアとコンビニに寄り、思い付く物をカゴに入れていく。
奈々子さんの家に辿り着いたのは、電話をしてから30分程あとのこと。
玄関のチャイムを鳴らすとゆっくり扉が開き、奈々子さんが顔を覗かせた。
「コンバンハ」
「こんばんは…。ほんとに来てくれたんだ」
額には冷却シート、格好は部屋着で髪の毛には寝癖がついてる。
見るからに病人って感じ。
「冗談であんなこと言うわけないデショ」
「ありがとう。実は死にかけてた…」
「はぁ…。いつもグイグイくるくせに、何でこういう時頼らないの…」
「だってうつしたら悪いし。それに、すっぴんだし…!」
「そんなこと?大して変わんないし」
「ほんと!?すっぴんでも可愛い?」
「そこまで言ってない」
覇気はないけど、やり取りはやっぱり奈々子さんだ。
内心、少しだけホッとした。