第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
あの日の帰り道の感情も薄れてきた、数週間後。
今夜は、再び奈々子さんと会う約束をしている。
あれから一人になって、色々考えてみた。
やっぱり期待を持たせるようなことは避けるべきだ。会うのは今日を最後にした方がいいかもしれない。
奈々子さんと過ごす時間は結構気に入ってるし、奈々子さんのことだっていい人だとは思う。
でもだからと言って、すぐ恋愛に結び付くような単純な構造はしていない…僕は。
こういうのが男女の面倒くさいトコロ。
どちらかに恋愛感情が芽生えた途端、関係は破綻する。
いや、そんな物思いに耽っている場合じゃなくて。
今朝は少し寝過ごしちゃったんだよね…。
何せ、この寒さがいけない。布団から出るのが酷く億劫だ。
宮城の冬はもっと寒かったはずなのに、僕の体は上京から数年ですっかり東京仕様になってしまったらしい。
狭い部屋を行き来し忙しなく出勤の準備をしている中、スマホの着信音が響く。
LINEのメッセージを知らせる音だ。
チェックしてみると、奈々子さんから。
[おはよう。朝早くにごめんね。
実は風邪引いて、熱まで出てきちゃって。
今夜は会えそうにありません…。
またこちらから連絡するね。本当にごめんなさい]
熱…。『!』マークもない…。
「……」
取りあえず今は急いでる。
返信は電車の待ち時間にするとして、早く家を出ないと。
コートに仕事用の鞄を手に取り、僕は足早に駅へと向かった。
いつもどおり程々の残業をこなし、慌ただしく一日が終わる。
更衣室で着替えてからスマホを確認してみるが…
「既読ついてないじゃん…」
今朝受信した奈々子さんからのLINEに、体調を伺うメッセージを送ったんだけど…寝てるのかな?
一人暮らしって、熱出た時がほんと困る。
買い物に出る気力も体力もないし、薬を切らしてた日には最悪。
寝てるだけならいいけど、メッセージも見られない状況だったりして…。
まあでも、困ってるなら誰か友達にでも助けを求めるか。
……いや、意外と気を遣ってそんなことしない人かもしれない。
「……」