第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
結局僕たちはそのまま二件目へ。
程よいお酒が飲めればそれで良かった。
もっと言えば、奈々子さんの気持ちが紛れたら…なんて思惑がなかったわけでもない。
奈々子さんが遅れてやってきたのは幸運だったのかもしれない。
彼女が来る前の会話なんて、とても本人に聞かせられるような内容じゃなかった。
人に気を遣うなんて僕らしくはないけど、でも…
失恋の傷を抉るのは、あんまりだと思うから。
「もう、さっきの蛍くんすっごいかっこよかった!」
「はあ…」
「助け方がまたスマートで。私なんて喧嘩買っちゃってダメだねー」
…なんだ、元気じゃん。
この前と同じように、飲んで食べて喋って笑って…
まあ、はっきり言って楽しそうだ。
「正直キュンとしちゃった!あんな風に守ってもらうの、初めて!何かさ、何かさ、さっきのってまるで…」
王子様みたいだった、とか言わないよね?
「お姫様を守るナイトって感じ?」
あ、そっち?
しかもその設定だと奈々子さんがお姫様ってことになるよね…結構図々しい人…。
「守ったうちに入んないでしょ、あんなの」
「えー?私がそう感じたんだから、守ってくれたんだよ、蛍くんは!」
「大袈裟。そのくらいで感動してたらまた変な男に捕まりますよ?」
「…蛍くんは、変な男じゃないでしょ?」
「はい?」
コトン、とワイングラスをテーブルに置いた奈々子さんは、背筋を伸ばし改まって僕を真っ直ぐに見つめてくる。
「ねぇ、私…ちょっとマズイ…」
「何が?」
「蛍くんのこと、好きになっちゃったみたい」
「……」
そんな困ったような顔して言われても。
こっちだって困ります。
「それ、 "好き" とは違いますよ。寝れば冷めるヤツです」
「何で私の気持ち、蛍くんがわかるの?」
「だって、単純過ぎませんか?」
「単純でも、蛍くんの優しさに落ちちゃったんだから仕方ない!」
えー…?
自信満々なんだけど…。