第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
奈々子さん曰く、キングコング似の元カレ。
筋肉隆々でゴリラっぽい感じ…確かに。
妙な納得をしつつ、そのやり取りを耳にしながら場を離れ、レジへと向かう。
「ほんっとお前可愛くねぇな」
「別にあなたに可愛いって思われなくてもいいんで」
「やっぱお前と別れたの正解だわ。二股じゃなくたって、別れてすぐ他の男とデートとか尻軽過ぎんだろ。てか、飢えすぎ?」
「そっちこそ雑色のクセに何言ってんの。どうせまた浮気するんでしょ?浮気ぐせは治らないって言うしね」
まだ元カレと静かなる言い合いを続ける奈々子さん。
そこへ近づき、奈々子さんの上着とバッグを掴んだ。…ついでに、奈々子さんの手も。
「あのー、スミマセン。奈々子さん、二股かけてもいないし尻軽でもありませんよ?」
無理矢理笑顔を張り付け、二人のやり取りに声を挟む。
「ハ?」
不機嫌そうに僕を睨む元カレ。
「何か勘違いしてるみたいですけど。僕が勝手に奈々子さんに言い寄ってるだけなんで。ていうかココ空気悪いんでお先に失礼シマース。ほら奈々子さん、行きますよ」
「ちょ、蛍くんっ?待っ、あ、お会計!」
「払いました」
淀んだ空気を纏った場所から寒空の下へ。
奈々子さんの手を握ったまま、足早に抜け出した。
当てはないけど、取りあえず夜道を進む。
またあの元カレと出くわすことのなさそうなところまで。
「ありがと…蛍くん」
「別に。ああいうの、腹立つんで」
「ごめんね、変なことに巻き込んじゃって…」
「巻き込まれてませんよ。まあでも、未遂でしたかね」
「だよね…」
足を止め、振り返る。
そこには気まずそうに俯き、自分の爪先を見つめる奈々子さんがいた。
「次。どこ行きます?」
「え…」
「ほとんど飲んでないデショ?」
「…まだ付き合ってくれるの?」
「はい?そのつもりで会ってるんじゃないですか」
そう言った途端、奈々子さんの顔は綻ぶ。
「うん…!」
「ていうか、奈々子さんて怒ると怖いんですね。怒らせないようにしよ」
「えー?滅多に怒らないよ、私。温厚だし」
「自分で言う?」
表情豊かで天真爛漫。
やっぱり、こっちの顔の方が奈々子さんって感じする。