第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
「なに?蛍くん…。私の顔に何か…、あ!!眉毛太過ぎとか思ってる?」
「は?いえ…」
「実は今日、上手に眉毛描けなくて…!あんま見ないでっ!」
「見てませんけど…」
見てないって言ってるのに、しきりに奈々子さんは両手で眉毛を隠してる。
木兎さんと同い年だから、二つ年上…だよね。
気配りできるところは大人だと思うけど、こういう仕草は無邪気というか、飾り気がないというか。
そういえば、年上と付き合ったことってないんだよね、僕。
「……」
いや、何考えてるんだろ…。
"付き合う" とか、奈々子さんは別にそういう対象じゃないじゃん…。
そうだ、黒尾さんと木兎さんのせいだ。
あの人たちが変なこと言うから…。
「そんな可笑しな眉毛してないから大丈夫ですよ。ワインなくなりそうですけど。次頼みます?」
「え?うん、そうだね。今度はカクテル…」
僕がメニューに手を伸ばそうとすると、言葉は不自然に途切れた。
顔を上げた先には、眉を潜めた奈々子さん。
そして、テーブルの脇にはそんな奈々子さんを見下ろす一人の男。
カウンター席で下衆な話を肴に盛り上がっていた男だ。
「奈々子じゃん…」
「……」
話しかけられた奈々子さんは一気に固い表情になり、その男から目を逸らした。
男の方はと言えば、冷めた瞳でチラッと僕を見下ろしてくる。
…は?何ですか?
「お前さぁ、実は自分だって二股かけてたんじゃねーのソレ?まだ別れて一ヶ月経ってねーじゃん。別れる時文句言わなかったのって、そいつがいたから?」
「は?なにそれ。私二股なんて絶対しないし。私を同類にして自分の罪軽くしてんじゃないよ、このダメ男」
怖…。いつもとは別人なんですけど…。
いや、それより。今の会話の感じ。
さっきこの男が話してた元カノって、奈々子さんのこと…?