第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
ひとつため息を吐き出し、代わりにテーブルに届いた焼酎を体内に取り入れる。
あんなやり取りを聞いてしまうくらいなら、奈々子さんと話してた方がよっぽどいい。
そんなことを思っていた時だった。
店の出入口の扉が開く鈴の音が響き、待ち人がやってくる。
「ごめんね、蛍くん!待たせちゃって…!」
「いえ、お疲れ様です。先に飲んじゃってますけど」
「全然いいよ。私、何飲もっかなー」
コートを脱ぎながらメニューに目を落とした奈々子さんは、予想どおり赤ワインを注文する。
程なくしてテーブルに揃った、お酒と食事。
それを口にしながら、これまでよりもちゃんと奈々子さんを見てみる。
「蛍くん、どのくらい食べられる?取り分けていい?勝手によそわないほうがいい?」
「あ、自分でやります」
「そう?これね、ちょっとタバスコかけても美味しいんだよ」
「へぇ」
「辛いの平気?ここ置いとくね。よかったらどうぞ」
「はい」
「でね、お得意さんからの電話っていうのが…」
取り皿とフォークにタバスコ。
それを僕のそばに置いて、今日の仕事中に起きたハプニングとやらを話し始める。
あー…、一緒にいて苦じゃないって理由、なんとなくわかった気がする。
奈々子さん、押し付けがましくないんだ。
少し強引だし自分の主張もあるみたいだけど、僕が嫌悪感を抱くボーダーラインは越えてこない。
性格が違うのに居心地悪く感じないのは、その辺が上手く噛み合ってるのかもしれない。
それに僕が話す時には先を急かしたりせず、真っ直ぐに耳を傾けてくれる。
最初に飲んだ夜は確かに愚痴っぽかったけど、この前も今日も楽しそうにしていて、笑顔が印象的で。
僕は間違いなく、笑いを提供できるタイプの人間じゃあないのにね。
改めてマジマジと見つめる奈々子さん。
顔立ちが整っている…というよりは、俗に言う雰囲気美人って感じ?
髪もメイクもアクセサリーもネイルも、身なりに気をつかってはいそうだけど清潔感があり派手ではない。