第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
先日も奈々子さんと飲んだ店。
仕事のあと、直接そこに待ち合わせ。
早めに最寄り駅に到着した僕は、ゆっくりと目的地に足を運ぶ。
その道中ボトムスのポケットから耳に届いたのは、メッセージを知らせる受信音。
[仕事が長引いて電車に乗り遅れちゃった!!
先に飲んでてください!!ごめんね(>_<)]
この『!』マークも何だか木兎さんを彷彿とさせるんだよね…。
了解です、と。
手短にそれだけ返し、一人店の扉を潜った。
出入口のすぐそばにあるカウンター席は既に埋まっている。
後から連れが来る旨を店員に告げると、僕はその後方にあたるテーブル席へ案内された。
この前飲んだ焼酎は取りあえず頼むとして、食事はどうしようか。
奈々子さんはやっぱワイン飲むかな。それなら、どちらにも合いそうなものを…
メニューをサッと見渡し、早々に注文を済ませる。
一人のテーブル席は当然のことだけれど静かで、嫌でも周りの声が鼓膜を刺激してくる。
特に、少し離れたカウンター席に座っている二人組の男の声…。
「ほーんとだって。もう彼女とは別れたの!」
「じゃあ、二股かけてたもう一人と付き合い始めたワケ?」
「まあな。元カノにも浮気バレたし」
「マジ!?別れる時揉めたんじゃね!?」
「いや全然。あっさりしたもんだったよ」
「へー。女ってそんなもんなのかねぇ?」
「かもな。まあサッちゃんのが可愛いし、エロくていっぱいご奉仕してくれるし?元カノは結構エッチの時受け身でつまんねーって言うか。それに別れ際泣きごとひとつ言わねぇのも可愛くねーじゃん?ま、いいけどね。次までの繋ぎで付き合ってただけだし」
「ひっでー!お前いつか刺されるぞ!」
低俗な会話に、耳障りな笑い声。
…はぁ、クダラナイ。
繋ぎで女の人と付き合えるほど暇なの?
その彼女、よっぽど見る目なかったんだね。ていうか、浮気してくれて逆によかったんじゃない?
こんなしょうもない男と付き合ってる時間、ムダ以外の何物でもないよ。
聞きたくもない会話は勝手に耳に入ってくる。
そもそもこの店は雰囲気が落ち着いてて静かなところが気に入っていたのに、今夜はその空気は味わえそうにない。