第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
ひと口飲むなり、「あっ、好きな味だ」と嬉しそうに笑顔を向ける奈々子さん。
「何かモルトウイスキーに似てる…?」
「ああ、麦焼酎だからですかね」
「甘味があってすごく飲みやすい」
確かに雑味も少ないし、飲み慣れていない人にでも口にしやすい焼酎だろう。
ゆっくりそれを飲み進めたあと、今度は逆に奈々子さんオススメのワインを注文する。
「結構辛口ですね、これ」
一緒に頼んだ海老のローストによく合う、白ワイン。
「苦手?」
「いや、美味しいですよ」
食事と共に飲むのなら、甘味のあるものよりも辛口の方が好みだ。
「ほんと?良かった!お酒の好み似てるのって嬉しいよね。食事の好みもそうだけど。一緒に飲んでて楽しいもん」
「そういうことに限らず、誰とでも楽しめそうなイメージですけど。奈々子さん」
「え?そう?」
「何かコミュ力とか木兎さんっぽいっていうか…」
「ええ?木兎ぉ…?」
何だか腑に落ちない表情をして、首を捻っている。
「下心ナシで僕と飲みたいなんて言ってくる時点で、不思議な人です」
「どういう意味?」
「僕、結構人から敬遠されるタイプの人間なんですよ」
「そうなの?何で?」
「え?何でって思うところがもう…」
「えぇ?わかんないよ。だって蛍くん、全然敬遠したいタイプじゃないんだもん。むしろ仲良くなりたいくらいだよ?」
全く嘘のない瞳で、奈々子さんはそんなことを言ってのける。
"仲良くなりたい" だなんて、まるで小学生みたいな言い草だ。
こういう無垢で真っ直ぐな感じで来られると…
正直、対処に困る。
「今度はちゃんと誘っていい?蛍くん」
「……」
「また一緒に飲めたら嬉しいな」
こんな風に誘われても面倒だと感じないのは、奈々子さんの言い方と人柄だと思う。
僕の返事を待つ間に、手帳に自分の連絡先を書き始めた。
「気が向いたら連絡して?電話でもLINEでもどっちでもいいから」
同性に向けられるようなあっさりとした口ぶり。
スマホを取り出さないところからして、僕に逃げ道を作ってくれているようにも見える。
「…今、交換しちゃいましょうか」
「え…?」
紙の上を滑らせていたボールペンは、動きを止める。
「その方が、早いデショ?」